本などの感想

Dancing the Dream

Dancing the Dreamは1992年(アルバムDangerousのリリースから7ヶ月後)に出版された、マイコーによる2作目の著書です。
46個もの詩と100枚以上の写真が収められた盛り沢山な内容ながら、一般的にはほとんど知られていません。
「マイコーの魅力は歌とダンスで十分味わえる。詩なんか必要ない。」私もそう思っていました。しかし、一つ一つ読んでいくと、今まで読み取れなかった彼の作品の奥底にある原点、思想がどんどん浮き上がるのです。エグいほどに。
曲やダンスは時間制限があるし、平易な単語を使って要約された彼のエッセンスであって、そこに至るまでの過程を読み取るのは難しいです。
この本には、マイコーが世界をどう捉え、どんな信念をもって、何をしようとしていているかが、より明確に噛み砕いて描かれています。
それぞれのメッセージをつなげていくと、一つの思想や宗教のように体系化された内容になります。もしマイコー教があるなら、間違いなくバイブルはこれです。
今回はこの本のテーマをいくつかざっくり紹介します。
※()の中は引用した詩のタイトルです。

Dance

現代では自己表現やエンターテイメントの側面が強いダンス。
マイコーは「神」や「世界」と通じるための儀式のように捉えています。

I become the stars and the moon, I become the lover and the beloved. (dancing the dream) 僕は星になり月になる。愛する人、そして愛される人になる。

"Enough For Today"では、人間のせいで亡くなったイルカへの追悼として、ダンスリハーサルを早く切り上げるシーンがあります。

"Dolphins love to dance, of all the creatures in the sea, that's their mark."
I thought 'they're killing a dance' And then it seemed only right to stop.
I can't keep the dance from being killed, but at least I can pause in memory, as one dance to another.(enough FOR TODAY)
「イルカはダンスが大好きなんだ。海の生き物で一番ね。それが特徴さ。」
彼らはダンスを殺している。そう思った。ダンスを止めることだけが適切に思えた。
僕はダンスが殺されるのを止められない。だけど少なくとも、一つのダンスから他のダンスへ、立ち止まって追悼することはできる。

ダンサーへの追悼としてダンスを一度やめるというのは独特な感覚です。
このように作品を通してマイコーのダンスに対する特別でユニークな思い入れが伝わってきます。

Children

マイコーは常に子供を大きなテーマにしていて、この本でも子供に関する詩や絵が非常に多く最初は異様に感じました。
そう感じる理由は、我々がイメージする「子供」とマイコーのそれにある大きな違いだと思います。
一般的な「子供」の定義は、10歳までとか20歳以下などという実年齢、大人に守られて生きているという社会的立場などですが、マイコーはもっと抽象的に「子供」を捉えています。
大人になると見失ってしまう、純粋さ、物事をそのままに見る姿勢、創造性、無垢な喜びなどを思い出させてくれる先生のような存在。彼にとってのインスピレーションの源。
そして誰もが心の中に持っているものでもあります。

Just find that child, it's hiding in you. (MAGICAL child)
その子供を見つけるんだ。あなたの中に隠れているから。

"Children show me in their playful smiles the divine in everyone.
This simple goodness shines straight from their hearts."
"Being with them connects us to the deep wisdom of life"(children)
"子供たちは遊び心に満ちた笑顔を通して、誰もが持つ神聖な部分を見せてくれる。
この素朴な素晴らしさは彼らの心からまっすぐ輝きを放っている。"
"彼らと共にいると、私たちは人生の深い知恵と繋がることができる。"

"I want my work to help people rediscover the child that's hiding in them" (ON children OF THE WORLD)
"皆の中に隠れている「子供」を思い出す手助け。これを自分の仕事にしたい。"

兄弟のように心を一つにした存在という意味でも使われています。
"We are the world We are the children" という有名なフレーズにこめられた意味は、「世界中の人々は繋がっていて一つになれる。」であることが確認できます。

in my heart I feel you are all my brothers (HEAL THE world)
僕は心の中で、あなたたち皆が兄弟だと感じている

I never feel alone when I am earth's child.(THAT one IN THE MIRROR)
地球の子供になるとき、僕は決して孤独を感じない。

Innocent Pure Simple

日本語にすると、純粋無垢、まっさらなこと。
これは未熟さ、子供っぽさと混同されることが多く、賢さと対比するものとされやすいです。
しかしマイコーはこれが知恵、知識であり、生きる術であると伝えています。

"survival means seeing things the way they really are and responding.It means being open."
"If you are are locked into a pattern of thinking and responding, your creativity gets blocked." (innocence)
"生き抜くことは、物事をありのままに見て、それに反応すること。つまりオープンでいることだ"
"一つの考え方と反応パターンに閉じこもったら、あなたの創造性は閉ざされてしまう"

"She made no judgments about herself. That was her wisdom."
"In their innocence, very young children know themselves to be light and love"
"I see this knowledge showing itself in the eyes of children more and more" (WISE little GIRL)
"彼女は自分を値踏みしたりしなかった。それが彼女の知恵だった"
"とても幼い子供たちは、純粋だからこそ自らが光であり、愛であると知っている"
"僕は子供たちの瞳の中に、次々と姿を見せるこの知識を見る"

二面性

この本で、マイコーは普段見せるエネルギッシュな姿の裏にいる、静かな「もう一人の自分」を見せてくれます。
マイコーのパフォーマンスがどこまでも深いのはこの「もう一人の自分」がいるからでしょう。


My dance is all motion without, all silence within.
silence is my real dance, though it never moves.
It stands aside, my choreographer of grace, and blesses each finger and toe.
(DANCE OF life)
僕のダンスはあらゆる「動」が外へ、あらゆる「静」が内へ向く。
静寂が僕の本当のダンスだ。一度も動くことはないけれど。
離れた場所から見守ってくれる気品に満ちた振付け師で、指先からつま先まで美しくしてくれるんだ。

sweet bird, my soul your silence is so precious.(TWO birds)
愛しい鳥、僕の魂 あなたの静寂はとても大切だ。

葛藤

彼が体験した強い苦しみ、悲しみも表現されています。
そのなかでも印象的なのは「自分の中の考えに対する苦しみ」「自問自答」が最後まで繰り返されているところです。
マイコーでも、自分の中に天使と悪魔がいたんだな…当たり前のことだけど、意外でした。


Human beings are weak an selfish. Despite our best efforts, these problems will never really end."
The head said yes, but the children looked into their hearts and whispered "No!"
(BUT THE heart SAID NO)
人間は弱くて自分勝手だ。ベストを尽くしたけど、これらの問題が解決することはない。
頭では"yes"といった。でも子供たちは心の中を覗き込んで"No"と囁いた。

The elusive shadow was my soul.(THE elusive SHADOW)
この捉えがたい影は僕の魂だった。

Courage

勇気とは、怖いものや危険を恐れずに突き進んでいく強さでなく、むしろ自分の感じている「恐れ」をありのままに受け入れて、それに向き合うことだとマイコーは考えています。

We think separating ourselves from others will protect us, but that doesn't work, either.
It leaves us feeling alone and unloved.(trust)
他人から距離をおけば自分を守れると私たちは考えるけど、うまくいかないんだ。
そうすると孤独になり、愛されていないと感じることになる。

"the courage to be honest and intimate opens the way to self-discovery. It offers what we all want, the promise of love"(courage)
正直にありのままでいる勇気は、自己発見への道を開いてくれる。そして私たち全員が望むものを与えてくれる。それは愛の約束だ

L.O.V.E.

大きなテーマ「愛」はいろんな角度で語られています。

love is like a bar of soap in the bathtub - you have it in your hand until you hold on too tight (love)
愛はお風呂の石鹸みたいなものなんだ。強くつかみすぎなければ、手に持っていられる。

"We" must be love's favourite child (I YOU we)
「私たち」はきっと、愛のお気に入りの子なんだ。

Silently, from one person to another, love kept up its invisible work.(Berlin 1989)
ひっそりと、人から人へ、愛は見えない働きを続けた。

love means complete self-honesty (THAT one IN THE MIRROR)
愛はあらゆる点で自分に正直なことを意味する。


この本では「地球への愛」「地球からの愛」が何度も書かれています。


"You are my sweetheart" (PLANET earth)
あなたをとても愛おしく思う。

Mother Earth wants us to be happy and to love her as we tend her needs.(THAT one IN THE MIRROR)
母なる地球は僕たちの幸せを望んでいる。そして彼女の要求に目を向けて、地球を愛してほしいと思っている。

We are one

この本には理不尽に殺される動物たち、環境破壊、貧困、差別、戦争など世界の抱える様々な問題が登場します。
マイコーは、人々はそういった問題を知りながらもどこか他人事で、遠くにあるものと考えていることを鋭く指摘しています。
世界を自分と切り離して考えると孤独になってしまう。我々は繋がりを持った一つのファミリーだと認識すれば、私たちは自由になり、世界は良くなると、繰り返し主張しています。


When all life is seen as divine
everyone grows wings (WINGS without ME)
全ての命を神聖なるものと見なしたとき
誰もが翼を持てる

You and I were never separate
it's just an illusion
wrought by the magical lens of perception (heaven IS HERE)
あなたと私は決して離れ離れではなかった
それはただの錯覚さ
魔法のレンズを通った認識が作り出した錯覚なんだ

Unbounded pure is the embryo of divinity
If we could for one moment BE
In an instant we could see
A world where no one has suffered of toiled(QUANTUM leap)
限りなく純粋であることは、神聖さの源だ
僕たちが少しの間、そうなれるなら
すぐに出会えるだろう
だれ一人として苦しまずにいられる世界と

Life

マイコーは「命」「人生」の偉大さを強く信じていました。
命は有限で、小さくて、儚いものではなく、無限の可能性をもった強い力と捉えています。

In the core of your Being
Is a field that spans infinity(QUANTUM leap)
あなたの存在の核心にあるもの
それは無限に広がるフィールド

The pain of life touches me, but the joy of life is so much stronger.
And it alone will heal.
Life is the healer of life, and the most I can do for the earth is to be its loving child. (that one in the mirror)
僕は人生の痛みに触れる。でも人生の喜びの方がずっと強い
これだけで癒される
人生が人生を癒すんだ。僕が地球に対して出来る最善の行いは、その愛らしい子供でいることなんだ。

"nothing would finally save life on earth but trust in life itself"
"life can never be killed.
it is the power that brought me forth from the emptiness of space." (LOOK AGAIN,baby SEAL)
"最終的に命を救えるは、命そのものへの信頼だけなんだ"
"命は決して殺されない。
宇宙の空虚から僕を前進させる力だ。"

start living!

本当に耳が痛いのですが…マイコーは思考停止して日々なんとなく人生をやり過ごして生きている人に対して「ちゃんと生きろ!」と喝をいれています。

to live is to move(SO THE elephants MARCH)
生きることは動くことだ

we just stop existing and start living (HEAL THE world)
ただ居るだけは止めて、生きることを始めるんだ

Live, be, move, rejoice- you are alive!(A child IS A SONG)
生きろ、存在しろ、動け、喜べ - あなたは生きているんだ!

Eternity

人間も、動物も、惑星も、いつかは命を終えてしまうけれど完全に消えてしまうことはない。
それぞれが何かを残して、次の世界へ去っていくのだと書かれています。
このときマイコーはまだ30代前半ですが、すでに自分がいなくなった後にまで思いを馳せて、世界に何を残していけるか、真剣に考えていたのでしょう。
"DANCE OF life"のラストには胸がいっぱいになります。Starは完全にマイコーのことです…

Dancers come and go in the twinkling of eye but the dance lives on.(dancing the dream)
ダンサーたちは瞬く間に現れ、去っていく。でもダンスは生き続ける。

A star can never die. it just turns into a smile and melts back into the cosmic music, the dance of life. (DANCE OF life)
星は決して死なない。微笑みに姿を変えて、宇宙の音楽へ溶け込み、命のダンスへと戻っていくんだ。

Eons pass
deep inside I remain ever the same
from Bliss I came
in Bliss I am sustained (ARE YOU listening?)
時代は流れる
心の奥底で、僕はずっと変わらずにいる
最高の喜びから僕はやってきた
最高の喜びに僕は留まる

視線の先



パフォーマンス中のマイコーは、いつもどこか遠くを見ているように見えます。
目の前にある現実ではなく、その先にあるもの、彼が目指すもの。実現していないけど彼にははっきりイメージできているもの。
初めて彼を知った時から、私は「何かを見続けている」彼の姿がとても美しく、その視線の先にある「何か」がとても素敵なものに思えました。
この本を読むと、マイコーが見ていたイメージを私たちも見ることができると思います。

写真の魅力

詩の内容とリンクして、たくさんの写真やイラストが収録されています。Dangerous時代が多めです。
じっと眺めていると、何度も見たはずの映像でもいろいろ新しい発見ができました。
Black Or Whiteのラップパートで、子供たちの衣装がちょっとずつお揃いだったり、右腕の長いグローブ?を付けるときはシャツの袖が短くしてたり、マイコーのベルトデザインのバリエーションを楽しめたり、 ステージに上がる子供たちは耳栓してるとか…

ショートフィルムとのリンク

この本で描かれているいくつかの場面やイメージは、後々マイコーの作品で具現化されています。
「なるほど、こういう構想だったのね」と思う部分がいくつかあります。

Earth Song : 牙のために殺される象(SO THE elephants MARCH)、網にかかってしまうイルカ(enough FOR TODAY)、毛皮のために殺されるアザラシの描写(LOOK AGAIN, baby SEAL)

We'll meet on endless shores (children OF THE WORLD) 
僕たちはひと続きの海岸に集まる

これは"Cry"のショートフィルムそのものですね。

They are going to disarm us adults, and that will be enough to disarm the world.(WISE little GIRL)
彼らは私たち大人の武器を捨てさせる。そして世界全体の武器まで捨てさせてしまう。

Heal The WorldのSFで、最後に武器をもった大人が子供を前にして一斉に武器を捨てるシーンがあります。

いろんなマイコーに会える

きりがないのでこれで最後にします。
一つ一つの詩がユニークで、韻文詩、散文詩、エッセイ、物語、ドキュメンタリー…いろんな形式が混ざっています。
彼の動物への深い愛が伝わり、"THE last TEAR"はすごくロマンチックで歌にしてほしかったと思ったし、神様や天使の話も素敵、マイコーが星座に詳しいことにも驚きました。
底知れないマイコーの魅力に出会える本です。今のところ英語のみで難しい単語も多いですが、辞書をなんども引きながらじっくり読んでみてはいかがでしょうか。

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